中村です。

みなさんAmazon Monitronをご存じでしょうか?
2023年8月に東京リージョンでも利用できるようなった産業機械の異常を予兆検知するサービスです。

産業用機械学習サービス - Amazon Monitron - AWS
Amazon Monitron は、機械学習を用いて産業機器の異常な状態を検出し、予知保全を可能にするエンドツーエンドのシステムです。

回転機器(ファン、ベアリング、モーター等)の”温度”と”振動”データを収集し、 機械学習を使って分析、機械の異常パターンから潜在的な障害の予兆を検知してダウンタイムの発⽣を防⽌できます。
低価格な専用のセンサーデバイスを既存の装置に取り付けることで利用でき、フルマネージドサービスなので収集したデータの機械学習もすべて自動で行われユーザーが学習する必要はありません。
今までの機器のメンテナンスは計画的に予防保全を行う”Time Base Maintenance(TBM)”や事後保全だったのに対し、Amazon Monitronを利用すると機器の状態から予防保全を行う”Condition Based Maintenance(CBM)”が手軽に行えるようになります。
クラウドセントリックでは製造業のお客様向けにIoT関連で何か新しいサービスをと探していたところだったので、さっそく社内で検証してみました。

Amazon Monitronの導入について

そもそもAmazon Monitronですが、下図のようにセンサー、ゲートウェイ、Monitronサービス、アプリの4つのコンポーネントから構成され、以下のような仕組みになっています。

  1. 機器に専用のセンサーを取り付け、振動数、温度の情報をゲートウェイへ転送する
  2. センサーからデータを受け取ったゲートウェイは、サービスにデータを転送する
  3. ゲートウェイからデータを受け取ったMonitronサービスは、機械学習でデータを分析しベースラインを設定。異常を検知した場合はアプリへ通知
  4. 収集したデータのグラフや障害検知の通知をアプリやブラウザで確認
参考(https://aws.amazon.com/jp/monitron/)

また、Amazon Monitronを利用するまでの流れは以下のとおりです。

  1. ハードウェアを購入
  2. AWS アカウントの準備
  3. プロジェクト・ユーザー作成
  4. ゲートウェイを設置し登録
  5. アセットを追加
  6. センサーを設置しアセットへペアリングする
  7. モバイルアプリによるアセットの監視
  8. アラームの確認と対応

各手順の詳細は割愛しますが、大事なポイントとしてAWSアカウントの準備でIAM Identity Centerを利用しますので、ご利用中のアカウントでIAM Identity Centerを利用できない場合は、専用のアカウントを新規に作る必要があるので注意です。

Amazon Monitronの検証

物品の購入、アカウントの準備、プロジェクトの作成を終え、遂にセンサーとゲートウェイの設置です。
弊社内にある回転系の機器ということで、冷蔵庫と扇風機に取り付けてみました。本来は接着剤で取り付けるとありますが、今回検証後は外しますのでテープでがっちりと取り付けました。

冷蔵庫と扇風機へ取付け

すぐにデータの収集が開始され、アプリやブラウザからもグラフを確認することができます。

収集データのグラフ表示

異常検知には機械学習による検知と、ISO 20816規格を元にした検知の2つがあります。機械学習の検知のためには2~4週間かけて収集したデータを学習しベースラインが設定されます。(その間はISO 20816の基準値による検知しか利用できません)

検証期間中に冷蔵庫と扇風機が都合よく不調になることが無いので、ベースラインが設定された後意図的に振動や温度を変化させ、機械学習による検知が行われるかのテストを実施したところ、きちんと異常を検知し通知を受け取ることができました。

アラート通知

アラートに関しては、故障のタイプ、原因、行ったアクションをフィードバックで回答することにより、Amazon Monitronは追加学習を行い検知の精度を上げる仕組みも備わっています。

検証からわかったこと

検証をしてみてわかった、ガイドからは読み取れなかったこととして以下の点がありました。

  1. ベースラインの設定完了通知がないため、ログを取得して確認する必要がある
  2. 機械学習による検知の基準値を知ることができない。個別に閾値を設定することができない
  3. 扇風機のような稼働・停止を日々行うような機器だと、ベースラインの調整が4週間で終わらない

    ①、②はフルマネージドだからこそ、ユーザーが気にしなくてよいということなのかもしれません。
    ③に関してはセンサーのデータ収集間隔が1時間に1回なので、停止を伴うと収集できるデータ数が少ないのが影響すると考えています。

    コスト

    気になるコストですがセンサー、ゲートウェイ、別売りACアダプター(参考)、サービスの利用料で1年間使った場合は約14万円(2024/3/17時点)です。この価格で予知保全が始められると思うと、ちょっと試してみようという気持ちが沸きますよね。

    名前 料金
    Monitronセンサー5 個(TE1A001)  ¥79,700
    Monitronゲートウェイ

    ¥24,950 (イーサネット)
    ¥19,405 (Wifi)

    別売りACアダプター(参考) ¥1,199
    Monitron サービス 4.17 USD/センサー/月
    ゲートウェイはイーサネット、センサー5個を1年間利用した場合(¥150/ドル換算) 79,700+19,405+1,199+(5×4.17×12)×150=¥137,834

    まとめ

    検証を始めた後に気づいたのですが、公式ページのよくある質問には「消費者家電など、工場以外のユースケースのために予知保全を行うことは推奨していません」とあり、今回検証を行った冷蔵庫と扇風機は対象としてやや不適切だった感が否めませんが、それでもAmazon Monitronの機能や仕組みを知ることができ予知保全の可能性を感じることができました。

    なお、今回は社内だったため意図的に障害を起こした検証を行いましたが、実際の現場はそのような試行ができない環境です。検知のベースラインは自動的に設定されるため障害につながりそうな予兆段階できちんと通知してくれるのか、それとも実際の障害が発生してから通知されるのか(=予兆検知にならない)という疑問が残りましたので引き続き調査をしていきたいと思います。

    Amazon MonitronはAWS re:Invent 2023でセンサーが防爆対応したという発表があったり(現時点で日本未対応)、JAWS DAYS 2024でもセッションがあったりと徐々に広がりも見せています。
    弊社も実際にお客様の現場で導入支援を行いたいと思っていますので、ぜひAmazon Monitronをご検討ください。