はじめに
こんにちは。クラウドセントリック株式会社の吉川です。
前回の記事では、7月28日に開催されたArgoCon Japan、KeycloakCon Japanと、7月29日に開催されたKubeCon + CloudNativeCon Japanの内容を紹介しました。
本記事では、7月30日に開催されたKubeCon + CloudNativeCon Japanの基調講演やセッションから、Cloud Nativeコミュニティと標準化の動向、Platform Engineering、AI推論基盤、ソフトウェアサプライチェーン、セキュリティ、Kubernetesネットワークに関する取り組みを紹介します。
Cloud Nativeコミュニティと標準化
基調講演では、Cloud Nativeコミュニティの成長やOpenTelemetryの標準化など、Cloud Native全体の方向性が紹介されました。本章では、その中でも印象に残ったテーマを紹介します。
Cloud Nativeコミュニティの成長
本講演では、MentorshipやCommunity Group、Ambassadorsなど、Cloud Nativeコミュニティへ参加するための支援制度が紹介されていました。
また、日本におけるCloud Nativeコミュニティの成長や、コミュニティ活動を通じて継続的に学習・貢献できる仕組みも紹介されていました。
最後には、AIはCloud Nativeに置き換わるものではなく、その上で動作するというメッセージが示され、AIワークロードの拡大に伴い、KubernetesをはじめとするCloud Native技術の重要性が高まっていることが説明されていました。

OpenTelemetryとオブザーバビリティの標準化
OpenTelemetryがCNCFのGraduated Projectとなったことが発表されました。AIやクラウドネイティブ技術の普及が進む中で、オブザーバビリティの標準化が重要なテーマとして取り上げられていました。講演では、ベンダーに依存しない標準化や、ログ・メトリクス・トレースを統合して扱うアーキテクチャが紹介されていました。
また、AIエージェントの普及を見据え、LLMのトークン利用量やツール呼び出し、エージェントの実行経路などを標準化された仕組みで収集・可視化する「Agentic Observability」の取り組みも紹介されていました。OpenTelemetryの標準化されたデータモデルを活用することで、ベンダーに依存しないオブザーバビリティの実現を目指していることが説明されていました。
最後には、AI時代のオブザーバビリティに関する標準化を進めるため、OpenTelemetry GenAI SIGへの参加も呼びかけられていました。
主要セッションで紹介された技術動向
各セッションでは、Platform Engineering、AI推論基盤、ソフトウェアサプライチェーン、セキュリティ、Kubernetesネットワークといった領域について、実践事例や最新の取り組みが紹介されていました。これらの事例では、単一のOSSを導入するだけではなく、複数のOSSや技術を組み合わせながら、大規模環境を設計・運用する考え方が共通して示されていました。
また、各セッションで扱われる技術領域は異なるものの、いずれもKubernetesを中心にOSSを組み合わせてプラットフォームを構築・運用するアプローチが共通していました。以下では、その中でも印象に残ったセッションを紹介します。
GitOpsによるPlatform Engineering
OpenGitOpsで定義されている4つの原則(Declarative、Versioned and Immutable、Pull-Based、Continuously Reconciled)を振り返るとともに、GitOpsを単なるアプリケーションデプロイの仕組みではなく、Platform Engineeringを支える基盤として活用する考え方が説明されていました。

また、ApplicationSetやKustomize、Helmなどを活用した複数クラスタ管理や、設定の再利用による運用効率化、Gitを「Single Source of Truth」ではなく「Source of Intent」と捉える考え方など、大規模環境を見据えた運用手法も紹介されていました。さらに、OCI Artifactを利用したGitless GitOpsやKargoなど、新しいGitOpsの運用手法も紹介され、個々のツールを導入するだけではなく、それらを組み合わせてプラットフォーム全体を設計・運用することの重要性が説明されていました。
Kubernetes上のマルチテナントAI推論基盤
本セッションでは、Kubernetes上に構築したマルチテナントAI推論基盤が紹介されました。AIエージェントの普及に伴い、トークン消費量の増加やGPUリソースの有効活用が課題となる中、KubernetesとvClusterを活用し、複数の利用者が共有しながらも分離された推論環境を提供するアーキテクチャが説明されていました。
GPUリソースについては、共有ノードとプライベートノードを使い分ける構成に加え、GPUの断片化を防ぐビンパッキングスケジューリングが紹介されていました。また、共有LLM推論サービスでは、AI Gatewayを利用したテナントごとのAPIキー管理やトークン利用量の可視化、プレフィックスキャッシュの分離など、マルチテナント環境を前提とした運用手法も説明されていました。
さらに、負荷認識型ルーティングやワークロード認識型オートスケーリングなど、GPUワークロードに適した運用方法も紹介され、AI時代のCloud Native基盤では、GPUリソースの効率利用とテナント分離を両立するプラットフォーム設計が重要であることが示されていました。
SBOMitによるSBOM精度向上
本セッションでは、SBOM(Software Bill of Materials)の精度向上を目的としたOpenSSFプロジェクト「SBOMit」が紹介されました。従来のSBOM生成では、ソースコードやパッケージ管理ファイルを解析するSCA(Software Composition Analysis)が一般的ですが、実際のビルドで利用された依存関係を正確に反映できず、誤検出や欠落が発生する課題があることが説明されていました。
SBOMitでは、Witnessを利用してビルド中のファイルアクセス、プロセス実行、ネットワーク通信を記録し、その情報を基にSBOMを生成します。ビルド中に実際に使用された依存関係を記録・認証することで、推測ではなく、検証済みのSBOMを生成する仕組みが紹介されていました。
このように、ビルド時の実際の挙動を基にSBOMを生成することで、ソフトウェアサプライチェーンの信頼性向上を目指すアプローチが紹介されていました。
AI時代の拡張可能なセキュリティとコンプライアンス
AIの活用によってソフトウェア開発は高速化する一方で、脆弱性を狙った攻撃やサプライチェーン攻撃も高度化していることが紹介されました。特に、AIに依存した開発では誤った依存ライブラリの提案やハルシネーションなど、新たなリスクが生じることも説明されていました。
また、従来は手作業で管理されることが多かったGRC(Governance・Risk・Compliance)についても、セキュリティ対策と切り離すのではなく、機械が扱える形で標準化し、自動化された開発・運用プロセスへ組み込むことの重要性が紹介されました。
最後に、①ガバナンスとセキュリティワークフローの標準化、②要件とセキュリティの自動連携、③Zero Trust・Zero Tokenによるシステム全体の保護の3点が示されていました。AIそのものだけでなく、AIを利用したソフトウェア開発プロセス全体にセキュリティとコンプライアンスを組み込むことの重要性が説明されていました。
大規模Kubernetes環境におけるCiliumへの移行
本セッションでは、150以上のKubernetesクラスターをAWS VPC CNIからCiliumへ移行した事例が紹介されました。eBPFを活用したネットワーク処理に加え、Hubbleによる可観測性やkube-proxy replacementなど、Ciliumの機能を活用したネットワーク基盤への移行が進められていました。
講演では、300ノード規模での性能評価や、AWS EC2 APIのレート制限がスケーラビリティのボトルネックとなった事例が紹介されました。この課題に対して、Prefix Delegationを利用することでEC2 APIコールを大幅に削減し、大規模環境での運用効率を改善していました。

また、移行はテスト・ステージング・本番環境へ段階的に展開され、ノード単位で切り替えながらリスクを抑えて実施されていました。さらに、MTU設定の違いやネットワークポリシーに起因する問題も共有され、大規模なKubernetes環境では性能だけでなく、既存環境との差異を十分に検証し、段階的に移行を進めることの重要性が説明されていました。
3日間を通して感じたこと
今回のKubeCon + CloudNativeCon Japan 2026では、AI時代に対応したKubernetesの進化や、Platform Engineering、OpenTelemetry、SBOMなどの標準化、そしてOSSコミュニティを中心としたCloud Nativeエコシステムの広がりが印象的でした。個々のOSSを利用するだけではなく、それらを組み合わせて大規模なプラットフォームを構築・運用する考え方が、多くのセッションで共通して示されていました。
今後は、IaCやGitOpsを活用したクラウド基盤への理解を深めるとともに、Kubernetes SIG DocsなどのOSSコミュニティへ参加し、Cloud Native技術への理解をさらに深めていきたいと考えています。また、今回のセッションで紹介されたOSSや技術にも実際に触れながら理解を深め、業務や今後の学習に生かしていきたいと考えています。
また、国際的なカンファレンスでは、英語でセッションの内容を理解し、登壇者や参加者とコミュニケーションを取ることの重要性も実感しました。今後は、技術学習とあわせて英語力の向上にも取り組んでいきたいと考えています。
※ この記事に記載されている会社名、製品名、サービス名、及びロゴ等はそれぞれの会社あるいは団体の商標又は登録商標です。
#KubeCon
#CloudNativeCon
#Kubernetes