取締役COOの小林です。2026年3月12日~18日の1週間、米国テキサス州オースチンで開催されたサウス・バイ・サウスウェスト(SXSW 2026)に参加する機会を得ましたので、報告します。
SXSWとは
SXSW Japan公式サイト(https://sxsw.miraiyoho.com/)上では「世界最大級のビジネスカンファレンス&フェスティバル」と謳われており、以下のような記載があります。
|
SXSWは、未来を見る場所ではなく、未来の側に立つ場所。 世界の変化を観る側から、動かす側へ。 ここは、次の時代を仕掛ける人たちが集まる現場です。 |
1987年に音楽フェスティバルとして始まり、その後映像が加わり、さらに音楽や映像を展開する術としてのMultimedia(記録媒体など)の議論が起こり、それがInteractive(SNSなど)へと発展し、今年からInnovationというカテゴリになったそうです。Music、Film & TV、Innovationの3つのカテゴリのうち、私はInnovationを中心に様々なイベントを見聞きして廻りました。

3つのカテゴリの何処にフォーカスするかによって、ビジネスカンファレンスと呼ばれたり音楽見本市、クリエイティブの祭典と呼ばれたりするSXSWですが、全体像としては、むしろどれか1つに特定出来ない「混ざり具合」が、そのアイデンティティとなり人を惹きつけているように思います。ビジネス視点のワタシ的には、Innovationを中心にFilm & TVとMusicがエンタメ系として付加された複合イベント、といった感じです。

40回目の今年は、従来の会場であったオースチン・コンベンションセンターが建て替え(2029年に再オープン予定)で解体されたため、ダウンタウンのホテルなど15以上の施設に分散して開催されました。参加したいイベントを目指して、会場を行ったり来たりと結構大変でした。
どのような議論が行われていたか
まず、未来を語るということは、社会課題を語るということなのだと再認識しました。多くのセッションが、仔細な技術課題や実現障壁に捉われず、社会課題の解決に向けて議論を交わしていました。これまで取り組んできたことの「紹介」や最先端技術、実現方式の「説明」よりも、社会との関わりの中で「モノの考え方」「あるべき姿」の議論をしていました。
その中でも、今年の(今年も)最大のテーマはAIでした。

AIの登場で世の中はどうなるかという議論は、Workspaceというサブカテゴリで活発におこなわれていました。多くは「知識と経験はAIでも身に付けられるが、人間の能力はそれだけではない」と比較的楽観的だったように思います。また、AI時代に対応して人間は変われる、という期待を込めた発言も聞かれました。全体としてReact, Teamwork, Leadershipといった単語が良く出てきた印象です。
製造業のエンジニアリングチェーンへのAI適用を議論するセッションで、NASAのハードウェア設計者が「急速に変化する環境で自分のスキルを最新の状態に保つことがこれまで以上に重要であり、そこでは好奇心こそがスキルだ」と語っていました。また、AI時代のリスクを議論するセッションでは「クイックに手を付ける人が有利になり、そうでない人は追いつくのが難しくなる」と先手を打つことの大切さが強調されていました。

複数人がパネルディスカッション形式で登壇するセッションが多くありましたが、トークの中の色々なところに才能が紛れ知見が転がっているのを、進行役が丁寧に拾い上げて議論を組み立てていくのが旨いと思いました。また、セッション後半に質問コーナーが設けられており、そこでは先駆者・成功者から少しでも多くの知見を引き出そうと、参加者がマイクの前に列を成して質問に立つ場面が見られました。登壇者と参加者がフラットに対話する雰囲気ができていました。IT系カンファレンスと比べると、登壇者も参加者も女性比率が高かったのも印象的でした。

全体として、SXSWはもっと文化や思想の主張が強いのかなと思っていましたが、実際は極めて具体的にテクニックの議論をしていました。
展示やアトラクション
ソニーやヤマハ、NHKテクノロジーズなどが映像・音楽のクリエイターを支援する新技術を紹介していました。また、株式会社槌屋という会社が布状スピーカー(実物に接するとその不思議さに感動します)を紹介しており、今後様々な応用アイデアが期待できそうでした。


Film & TVカテゴリとInnovationカテゴリの中間領域として、MetaのVRゴーグルを使用したXR体験は人気が高く、毎朝開場前に廊下に長い行列ができていました。SXSWは3つのカテゴリを合わせ持つことで、クリエイターには新たな表現手段を提供し、参加者には未来を疑似体験させていました。

オースチンという街
テキサス州の州都であるオースチンは小さな街です。気温は昼間に最高37℃に達する日がある一方、その翌朝の出発時は2℃だったりと、寒暖差が厳しかったです。日本との時差は14時間(サマータイム期間)で、現地の夜7時が日本の朝9時です。ダウンタウンを歩き回ってヘトヘトになってホテルに戻ってきてパソコンを開くと、そこから日本対応の仕事が始まってしまうこともありました。

テキサス州は個人・法人に所得税が課されないとか、ハウジングコストが安いなどの理由でテスラやオラクル、HPE、デルなどが本社を置いています。ちょうど滞在期間中にイーロン・マスク氏が現在の主力工場Gigafactory Texasの近隣にAIチップの新工場Terafabを建設すると発表したので、どんなロケーションなのか見に行ってみました。写真右側の白い巨大な建物がGigafactory Texasであり、テスラの本社です。

社会実装の実験場
トヨタが自前のウーブン・シティで社会実装の実証評価をしているのと同じように、テスラを中心に様々な企業がオースチンの街で新しい試みを進めていました。
SXSW期間限定のようでしたが、テスラのエンボディドAI(ロボット)「オプティマス」がコーヒースタンドに立っていました。まだ立って周囲のヒトの動きを捉えて僅かに反応するだけであり、自律して接客ができるようには見えませんでしたが、今後急速に学習が進むものと思います。テスラはこのエンボディドAIを自社工場の生産ラインに投入するとのことです。

テスラのロボタクシー専用車「サイバーキャブ」は静態展示だけでなく、走行しているのにも遭遇しました。但し、公道においては必ずヒトが座っており、その前にはステアリングが付いているように見えました。

東京でも導入が始まっているLimeの電動キックボードや電動自転車が多量に配備されており、人々が日常的に利用していました。オースチンではLime専用アプリではなくUberアプリから利用するようになっており、課金も含めて他のUberサービスとのワンストップを実現し利用者の参入障壁を下げていました。また、Lime以外にも2つの事業者が参入していました。なお、駐輪場(ポート)が定められておらず、目的地に着いたらその場に乗り捨てが可能でした。無秩序になりかねないですが、利用者の利便性を第一に割り切った運用になっていました。

今回、宿泊したホテルと会場との間が7kmほど離れており、その往復はもっぱらロボタクシーを使用しました。LiDAR満載で走るウェイモ(ジャガーF-PACEベース)と、ビジョンだけで走るテスラRobotaxi(モデルYベース)です。いずれもまだフリーウェイは走れないようで、一般道(制限速度35マイル)を選んで片道20分のドライブですが、十分に実用的でした。運賃(という表現がそぐわない気もしますが)はいずれもダイナミックプライシングで、例えばウェイモが13ドルに対してテスラRobotaxiが9ドルなど、常にテスラRobotaxiの方が安かったです。主観的な評価ですが、ウェイモの運転は思い切りは良いが何となく怖い感じで、テスラRobotaxiの方が慎重で安心して乗っていられる感じがしました。
ただ、まだ走行できるルートが限られているようで、最短経路を走らずに遠回りすることがありました。またスマホアプリで配車をリクエストすると、どこでも乗車可能なわけではなく、近くの乗車位置まで徒歩で移動するように指示されることもありました。これらは学習データ(走行データ)の有無に拠るのかもしれません。オースチンというコンパクトな街は、学習データの網羅度を高めるのにちょうど良く、FSD(Full Self-Driving)の実証評価に向いているのかもしれません。


アマゾン系のZOOXも計測機器満載の車を有人で走らせてFSDの学習を進めていました。第三の事業者としてオースチンでの参入を目指しているのだと思います。競争を避けて他の都市での商用化を目指す方法もありそうですが、あえてオースチンを選んでいるようです。

路上や建屋の中で、小荷物(主にランチボックスなどでしょうか)を運ぶ自律走行ロボットも見かけました。路上では、ちゃんと信号待ちをしていました。日本で見かけるものより若干大型で実用的な感じでした。

SXSWのメインスポンサーであるRivianのイベントも含めて、総じてモビリティ領域での取り組みが目立ちました。いま、もしSXSWに新たなカテゴリを追加するとすれば、Mobilityになるのではないかなと思います。
オースチンは街全体が未来を積極的に取り入れ試行していく大きな実験場になっているように感じました。SXSWの開催地であることが、オースチンという街を動かしているのではないかと思います。
その他
話はSXSW2026に戻りますが、今年の目玉としてスティーブン・スピルバーグ監督がキーノートに登場し、多くの聴衆で溢れていました。事前予約はすぐに満席となり、私はメイン会場に入れずサテライト会場で大画面を見ました。スピルバーグ監督も対談の中でAIに触れていました。

Film & TVカテゴリでは映像作品の上映が行われ、Musicカテゴリでは夜遅くまでバンドの生演奏が行われていました。日本のバンドの演奏もありました。

開催期間の最後の2日間は、東京女子プロレスの現地興行が盛り上がっていました。私は全てのカテゴリに参加できるPlatinumパスを持っていたので、上記バンド演奏なども含めて期間中の全てのイベントに参加することができました。

SXSWの開催期間中は、オースチン在住の日本人との交流会や、日本人渡航者同士の交流会が開催されました。今年も数百人規模で日本人がSXSWに参加していたそうです。私も多くの方と名刺交換させて頂きましたが、IT企業の方とは殆ど出会わず、テレビ局やインターネットメディアの方が多かったように思います。また、大手企業の方よりもスタートアップの創始者・経営者の方が多かったように思います。

日本の自治体としては、愛知県と京都府が出展していました。京都府の方とお会いして、それをきっかけに京都発スタートアップの展示会場にお邪魔したところで、これまで何度も起業を成功させているいわゆるシリアルアントレプレナーの方にお話を伺う機会もありました。
SXSWそのものだけでなく、その周辺の機会も含めて、この1週間は多くの新しいモノ・コトに触れることができました。
まとめ
今年もSXSWの大きなテーマはAIであり、AIのインパクトを見誤らないように注意する必要があることを再認識しました。AIの潮流をしっかりと捉え、当社の戦略に組み込んでいきたいと思います。
一方で今年のSXSWでは、もはやクラウドをテーマとしたセッションには出会いませんでした。クラウドは既に社会実装が進んで定着しており、これから世の中を大きく変えるものではないということなのだと思います。我々は今後、世の中を変える新たな技術領域にシフトしていくか、それともクラウドの実装技術を徹底的に深化させて世の中に貢献していくか、考えていく必要がありそうです。エンジニアの社会的価値向上と共に、我々のような企業の存在意義をしっかり見いだしていきたいと思います。

※ この記事に記載されている会社名、製品名、サービス名、及びロゴ等はそれぞれの会社あるいは団体の商標又は登録商標です。
#SXSW
#SXSW26